約 1,225,115 件
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/257.html
「「……………」」 あまりの事に二人とも言葉が出なかった。それほどまでに強烈過ぎた。 と同時に身近にいるのは理想像なんだと思った。 「みや」 「ちぃ」 「……お金持ちって分からないね」 「……何人の生徒が現実を見るだろうね」 釘を刺されていたけれどネタを探してしまうのは記事を書く者の性でしょう。 と興味を抑えられずに近付いたのが運の尽きだった。 「ねぇ、部長は?」 「何か察知して帰ったみたい。記者の勘ってやつじゃない?」 私達はまだまだということか。 何度説明しても自分の記事を書いてほしいと駄々をこねる人を尻目に溜息を吐いた。 それにしても…… ノノl;∂_∂ ル<部長と口喧嘩したらどっちが勝つかなぁ? 从;´∇`从<話が噛み合わなくて喧嘩にならないと思うもんに~保全 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/911.html
前へ その曲は愛理ちゃんのソロパートで始まる。 ♪キスをあげるよ いま気付いた想い どんな言葉でも足りないから~♪ これだ。 この歌声。 体の芯から震えが湧き上がってきて熱い気持ちを呼び起こしてくれる、この愛理ちゃんの唯一無二の歌声。 それを聞いた瞬間、あぁ今この瞬間こそ二度とない瞬間なんだと思った。 一気に気持ちが高まり、叫びだしたいような熱い情熱の塊がこみ上げてくるのを感じる。 じっとしてなんかいられない。 愛理ちゃんの歌い出しが終わって間奏が始まった瞬間、僕は声を出して手を振り上げていた。 その最初の間奏になったところで、雅さんが身を乗り出して梨沙子ちゃんに声を掛ける。 「梨沙子ちゃん、誕生日おめでとーーー!!」 両手で口を覆うりーちゃん。彼女のその大きなおめめがこぼれんばかりに見開かれている。 隣りのお嬢様がそんな梨沙子ちゃんに何か語りかけているようだ。 雅さんの梨沙子ちゃんへの声掛けと同時に、桃子さんが客席を煽る。 「ラストの曲いくよーーー!!」 一気に高まるボルテージ。 これがBuono!ライブだ。カラダが憶えてる。この感覚を。 この熱気が僕は好きで好きでたまらないんだ。 ♪当たり前すぎるくらい 友達の時間が長かったせいで あなたのクセや性格だって 他の子より知ってんの♪ いい曲だなあー。 聴いてるだけで、体が勝手に動いていくよ。 愛理ちゃんの澄んだ歌声。聞くだけで心をキレイにしてもらえそうだ。 雅さんの艶やかな歌声。雅さんのその歌声には男としてドキドキさせられてしまうんだ。 そしてそれらが重なることで織り成すハーモニー。 それをライブで聴けることに幸せを感じる。 雅さんにがっついているりーちゃんとお嬢様のキモヲt・・・熱狂的コンビ。 愛理ちゃんのことは、僕の他にも後方でカメラ操作をしながら緑サイを遠慮がちに小さく振っている執事さんがガン見している。 桃子さんには? ・・・・・・ !! も、桃子さんには、、、!? 誰も見ていないじゃないか!! いや、まだ熊井ちゃんがいる。 熊井ちゃんは? 残る頼みは、もう熊井ちゃんしかいない! そんな頼みの熊井ちゃんは、この状況でものんびりとテーブルで飲んでいる抹茶シェイクを吸うことに今は夢中の様子。 その幸せそうなクマクマ笑顔。 抹茶シェイク、美味しいんだろうな。良かったね、熊井ちゃん。 でも、それを見て最後の砦が崩れたことを悟った僕は、一気に背中が冷えたんだ。 桃子さんには誰も注目していない・・・・・ ・・・まずい。 これはまずいんじゃないか。 うん、まずいよ。間違いなくまずすぎる。 軍団長は見てるよ。そういうの全部。 この人は客席の隅から隅までしっかりと見てるから。 ステージ上の桃子さんを誰も見ていないなんてことになったら、軍団長いじけちゃうぞ。 そして桃子さんのことだ。終わったあと、まるで僕が悪いとばかりに、このことでネチネチといびりかねないじゃないか。 ♪Ha~ 鈍感な あなたのこと 振り向かせたいから 勝負かける~の!!♪ ニコニコ顔で歌う桃子さんのその笑顔。 そんな満面の笑顔が、いま僕にとてつもない緊張感を抱かせてくれる。 ど、ど、ど、どうしよう・・・? そのときテーブルに置いてある一本のサイリウムが目に入った。 これ、ピンクサイだ。 そうか、これはきっと用意してあった3色のうち、赤はお嬢様が、そして緑は執事さんが手にしたんだろう。 そして、ここに残されたのは、余り物のピンク色のサイリウム。 緑のペンライトを持参し忘れた僕の両手は、いま空いているわけで。 愛理ちゃんへの視線を切ってそれを見てしまったとき、僕の運命は決まったのかもしれない。 躊躇している暇はない。 いま誰が桃子さんを応援するのか? 僕でしょ。 腹をくくった僕はそのピンク色のサイリウムを手にすると迷わずそれを折った。 ピンク色に発光するサイリウム。色が違うだけで何となくしっくりこない感じを覚えるものの、僕はいま使命感を持ってピンクサイを持ったのだ。 だから、そのピンクサイを緑サイのときと同じように全力をこめて振る覚悟を決めた。 そうやって僕がピンクサイを掲げたとき、ちょうど入るところだった。桃子さんのソロパートに。 ♪友達同士 そんな境界線 今すぐに飛び越えたいの~♪ そう歌い上げるや躍動する桃子さん。愛理ちゃんや雅さんとは全く違うその歌声。 でも、いま心から楽しそうに歌う桃子さんのその歌声は僕の心に真っ直ぐに響いてきたんだ。 いつも思う。 桃子さんという人はある一面だけ見てその人物像が分かるような単純な人じゃないんだ。 でも歌っている桃子さんを見ると、そのときだけは桃子さんの素の姿が見えているんじゃないかとも思えたりするわけで。 それぐらい、心から楽しそうに歌う桃子さんのその姿。なんてピュアなんだろう。 これがあのいつもの桃子さんと同じ人なのか?とさえ思ってしまうぐらい(何だとー!!いい?もぉはねry)。 桃子さん、本当に歌が好きなんだな。 そして、それ以上に、歌で人を喜ばせたいと思ってるんだろうな。この人は。 そんな桃子さんの歌声は、まっすぐ僕の心に響いて。 桃子さん! カッコイイ!! その瞬間、僕はこれ以上ないくらいの思い入れを持ってピンクサイを高く掲げ、力いっぱいステージに向けて振ったのだった。 その桃子さんの歌声に応えようという思いで。 ♪キスをあげるよ 今さら「好き」なんて言葉より効き目あるでしょ♪ こんなに抑えられないほどの気持ちの高ぶりを感じるような出来事っていうのは、そうそう無いことで。 僕がそんな感情を抱くほどに熱く盛り上がったこの曲も、あっというまに終盤に差し掛かっていた。 このステージの全て、その一瞬一瞬を脳裏に焼き付けておきたい。 そして、ついに訪れてしまった。 この曲の終わり。最後のパート。3人の歌声が重なる。 ♪あなたにだけは そっと教えてあげる 胸の奥 小さいつぼみのぬくもり 感じて~♪ その瞬間、こみ上げてくるものを抑え切れなかった。 反射的に飛び跳ねてしまい、頭上高く掲げた拳を思いっきり振り下ろす。叫び声を上げていたかもしれない。 たった一曲でこれだけのパワーを僕に与えてくれたBuono!の皆さん。 ステージの上に立つその3人のオーラ。それはまるで本当に後光すら目に見えるように感じられた。 言葉では言い尽くせない素晴らしいこのライブを共有できたこと。まさにそれは感動的な瞬間だった。 「「「どうもありがとーーー!!」」」 掃けながら、雅さんは客席最前でがっついている熱心な女の子ヲタ達に手を振っている。 雅さんはステージから身を乗り出すように、その子達に何か声をかけていた。 そんな雅さんに、最前列にいる子たちは感極まっている様子。 そして、愛理ちゃん。 やっぱり愛理ちゃんはすごい。圧倒的だった。 彼女は僕の手の届く人じゃないんだ。そんな当たり前のことを改めて再確認させられた。 そんな愛理ちゃんが僕のことを見てくれた。完全に一線の向こう側の人のその笑顔。眩しすぎる。恐れ多すぎて目を逸らしてしまいそうになるぐらいだ。 が、彼女が僕を見てくれたのはほんの一瞬。すぐに愛理ちゃんは僕から視線を移して会場中の人ひとりひとりに視線を配っていく。 その最後に彼女が視線を移した先は、その手に緑色のサイリウムを持ったまま、今は棒立ちになってしまっている男性だった。 そんな感じで愛理ちゃんが見てくれているというのに、その男性=執事さんは全く反応しなかったんだ。 すっかり固まってしまっている様子の執事さん。 あーぁ、あの様子じゃ記憶が飛んじゃってるのかもしれないな。 せっかく愛理ちゃんがわざわざあんなに手まで振って爆レスしてくれているというのに。 そんな光景を眺めていた僕だったが、すぐにステージの上に再び注目をせざるを得なくなる。 このピンクサイを持っている僕に対して、桃子さんがニッコリと微笑んでくれていたのだから。 満面の微笑みなのに、明らかに何か意味を含んでいるような、その軍団長の意味深な笑顔。 僕は多少顔が引きつるのを自覚しながら、ステージの桃子さんに向かって頭上で拍手をするのだった。 こうして、Buono!ミニライブは終わった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/393.html
前へ 「さ、そろそろ次の場所に移動しよっか!お嬢様、お腹は空いてないですか?おやつありますよ」 「ウフフ、まだ大丈夫です。お昼ごはんをたっぷり食べたから」 「・・・それより、動物園出たらその被り物取ってよね」 キリンとレッサーパンダのヘアバンドを気に入ってしまった2人は、それぞれイメージにあった動物のやつを、みんなへのお土産に決めたみたいだった。(私は鹿の角のを買わされそうになったので全力で抵抗した) 動物園の次、最後は千聖のリクエストで、アイドルグッズのお店に行く事になっていた。 現在時刻は15時30分。ここからそのショップまでの移動時間、さらにショップから門限どおりに寮に戻る時間を合わせても、2時間近い時間の余裕がある。 動物園で帳尻を合わせたから、なっきぃの栞の時間はきっかり守っている計算になる。でも、考えてみたら、アイドルショップに2時間ってどうなの?そんなにやることなくない? 「ねえ、千聖。C-uteグッズ見るの30分ぐらいにして、服でも買いに行かない?ほら、近くにファッション専門のビルがあるから。ももちゃんがよく制服に合わせてるベストとかリボンとか売ってるお店も入ってるよ。」 「あら、そうなの?でも、ももちゃんの制服のようになるなら、あまり購買意欲はわかないわね。ウフフ」 「あ、お嬢様。でもそこのお店なら、えりも好きだって言ってましたよ。結構いろんなテイストの服売ってるみたいだし、必ずしも桃子みたいにはならないかと」 「えりかさんが?それなら安心ね」 ――ももちゃん、ご愁傷様。 「でも、舞。30分ではC-tueのグッズを十分に見る事は難しいと思うわ。私、通信販売で買い溜めてはいるけれど、まだまだ持っていないグッズがたくさんあるのよ」 そう、最近の千聖が時代劇の他にハマッているのが、このC-uteというグループ。その中でも丘井ちゃんというメンバーが超お気に入りらしい。 「だったら、お店の人に“丘井ちゃんに関係のあるグッズ全部ください”って言えばいいじゃん。で、自分が持ってるやつはそこから除けば」 「もう、舞ったら。私は、何も丘井さんの全てのグッズが欲しいというわけじゃないの。ちゃんと選んで、厳選したものを大事にしたいわ」 「・・・千聖って、お金持ちのくせに欲がないよね」 「あら、そうかしら?」 考えてみれば、千聖の部屋はかなり広いけど、そんなに物は置いていない。寮もお屋敷も、ゴテゴテしたいかにもお金かかってますって感じの内装じゃなくて、仕立てのいい調度品で落ち着いた雰囲気を出している。 お屋敷の外に出る機会がそうそうないっていうのもあるだろうけど、これだけ金銭感覚がしっかりしているなら、将来的に舞のところにお嫁に来ても(以下妄想)。 「舞、それなら、1時間ぐらいでどうかしら?残りの時間を、服を見る時間に当てるのは?」 「んー・・・まあいいか。でも、なるべく早くしてよね!おそろいの服とかアクセサリー買いたいし」 「いいねいいね!お嬢様と舞と私がおそろいの服かぁ」 ――お姉ちゃん、空気読んでおくれやす。 アイドルショップは駅から歩いて5分ぐらいの場所にあった。店内は結構広いけど、休日だけあって、かなり混雑している様子。少しすくのを待とうかという話になって、店内が見える位置にあるベンチに座った。 「すごい人気ですねー」 男の人ばっかりかと思ったら、親子連れや同年代の女の子たちもいたりする。姉妹ユニットのBerrys工房のグッズも扱っているらしく、どっちかにしなさい!なんて怒られて泣いてるちびっこもいる。 お店の外では、くじ引きかなんかで当たった写真を、自分の好きなメンバーのと交換してもらうための“臨時交換取引所”みたいなのまで即席で作られていた。・・・なんか、アイドルショップって、雰囲気が独特。 「こんなにたくさんお客さんがいて、丘井さんのグッズ、ゆっくり見れるかしら?私、何だか緊張してきたわ」 「えっ緊張ですって!そんなときはまかせてお嬢様!舞美の七つ道具、アメちゃん!どうぞ召し上がれ!バナナもありますよ」 「え、あの・・・むぐぐ??」 「ちょっと、ここ飲食禁止だから!」 お姉ちゃんは登山用リュックから取り出した食べ物を次々に千聖の口に押し込む。やめて!周りの人の目線が痛い! 黙って佇んでいれば、そこらへんのアイドルなんて勝負にならないほど美人でかっこいいお姉ちゃんなのに、服装込みでどう考えても不審者。さわやか笑顔が逆に怖い。 あぁ、何てもったいない!違うの、普段はもう少しまともだから!制服の時のお姉ちゃんを目の肥えたヲタさんたちに見せ付けてやりたい・・・! しばらくすると、お店の喧騒が少し収まってきた。依然人は多いものの、混雑の切れ間になったらしい。 「行こう」 「ええ、そうね」 舞美ちゃんの暴挙で、緊張も若干ほぐれたらしい。千聖はすっくと立ち上がると、一直線にお店の入り口へ足を進めた。 「ちょ、ちょっとぉ!勝手に行ったら・・・」 「ん?手つなぎたいの?しょうがないなあ、舞は甘えん坊将軍だ!とかいってw」 「違うよ、もう!千聖一人にしたら危ないじゃん!あんな男の人ばっかりのとこに・・・」 女子校育ちの私も舞美ちゃんも、決してこういう雰囲気に慣れてるわけじゃないけど、千聖は私たち以上に免疫がないはず。 入り口近くのモニターで、ライブDVDを見ながらめっちゃ激しく踊ってる人、どういうつもりか写真に話しかけている人、○○の方が○○より可愛い!みたいなケンカをしてる大の大人・・・なかなかカオスな光景だ。 「千聖は?こんな光景見たらショックで倒れちゃってるんじゃない?大丈夫なの?」 「ん?お嬢様ならあそこで・・・」 舞美ちゃんが指差す先には、丘井ちゃんの写真の前で、熱心にメモを取る千聖。ほしい写真を厳選している真っ最中で、勉強の時とかには絶対に見せないような集中力を発揮しているのが傍目にも伝わってくる。どうやら心配は無用のようだった。 「なんかさ、丘井ちゃんって、どことなくお嬢様に似てるよね。雰囲気が」 「確かに。丘井ちゃんの元気で明るいところが、千聖が“こうなりたい”って思う理想の女の子に近いんだってさ」 あんなに夢中になっちゃって、本当に好きなんだなあ。ま、相手は芸能人だし、この場合は別に嫉妬の対象にはならないんだけどね。 一通り写真を選び終えた様子の千聖は、背が小さいから譲ってもらえたのか、はたまた実力で勝ち取ったのか、今は最前列でうっとり丘井ちゃんの写真に見入っている。 っていうか、何か「お会いできて嬉しいわ」「ええ、もちろんです」とかいって楽しそうにおしゃべりしているみたい。写真と。か、会話ってあんた・・・さっきの一方的に話しかけてる人よりレベル高くね? 「あはは、お嬢様は大丈夫そうだねー。」 「いやいや、全然大丈夫じゃないじゃん!むしろ頭がダメな感じになってるじゃん!」 「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!それより、舞はグッズ買わなくていいの?私、リーダーの写真ちょっと見たいなあ」 「んー・・・」 そう、巷で人気のC-ute、私たちも例に漏れず、それぞれごひいきのメンバーがいる。 千聖は明るくてムードメーカーな丘井ちゃんが好き。 お姉ちゃんは天然でさわやかなリーダーの麻衣美ちゃんが好き。 私も千聖ほど熱心じゃないけど、最年少で小悪魔っぽいキャラの麻衣麻衣がお気に入り。 もちろんなっきぃやえりかちゃん、栞菜に愛理も好きなメンバーがいて、結構寮で盛り上がったりすることもある(鬼軍曹は知らんけど、いかにも好きそうなキャラのメンバーがいるから多分・・・) 「ウフフ、千聖ね、今度舞台を鑑賞させていただくの。ええ、とても楽しみ」 千聖の楽しげなトークはまだ続いていた。 うわっ・・・我が愛しのハニーとはいえ、あいつマジキメぇ・・・。あれを放置するのも(逆の意味で)気が引けるけど、とりあえず周りに危害を加えることはないだろうし、よもやあんな覚醒状態の千聖に絡もうという勇者もいますまい。 さっきまで良識的な楚々としたお嬢様だったのに、大好きな丘井ちゃんグッズに囲まれるという非日常的な出来事は、千聖のテンションメーターをぶっちぎってしまったみたいだった。 「・・・お姉ちゃん、ちょっと別行動ね」 「ん?うん、わかった!」 まあ、せっかくめったに来れないアイドルショップに来たわけだし、私も麻衣ちゃんグッズを物色してみることにした。 へー・・・写真の他にも、文房具なんてあるんだ。タオルとかTシャツは、コンサートで使うのかな?たしかにこれは、厳選してグッズを買うとなると、30分じゃ無理だろうな・・・。 店内をぐるりと見渡すと、さっき踊ってる人がいた、C-uteのDVDの前に、人だかりができていた。コンサートのDVDでよく見る、掛け声つきで盛り上がっている。 何が起こっているのかは見えないけど、近くにいる人の話を盗み聞きしたところ、可愛い女の子達がノリノリで踊っているらしい。・・千聖といい、C-uteのマジヲタさんって元気だなぁ。 ***裏デートツアー*** 「ドタバタしててもラミラミラミラミ」 「メチャクチャしたいのラブ・ミー・ドゥ!!!」 ――あああ・・・やめてやめてやめて!お願いだからやめて! C-uteのオフィシャルショップ。ツアーDVDが流れるプロジェクターの下で、栞菜とめぐぅが激しくラミラミしている。アホか!何であえて目立つ行動取ってるんだYO! アイドルのお店になんか来たら、美少女大好きな栞菜がおかしくなるっていうのは十分想定できていた。 でもめぐぅもいるし、2人がかりで取り押さえれば・・・なんて考えていたら、めぐぅもハッスルハッスルしてしまった。そうだ、こいつは目立ちたがりやなんだった!すっかり忘れていた。 めぐぅも栞菜も身内びいきなしでかわゆいから、またたく間に店内のオタさんたちが集まって、軽いライブみたいな状態になった。めぐぅの無駄にキレのいいダンス、栞菜の「ええい、美少女はいねえのか!」という女王様ばりの恫喝に、会場(?)もヒートアップしていく。 おまけに、今日の私たちは不必要に目立つ格好をしている。色合い的に、ヲタTならぬヲタトレーナーで来訪した痛いファンのようにも見えるから、余計に手厚く迎えられてしまったみたいだ。 「ほら、えりも一緒に!わっきゃなぁい」 「「「ゼエエエエット!!!」」」 「ウチのことは放っておいてください・・・」 這う這うの体でその輪から抜け出すと、私はヨレヨレになりながら、柱の影に身を寄せた。 そこそこ広いお店でよかった。舞美も舞ちゃんもお嬢様も姿が見えないから、この動乱には気づいていないみたいだ。それぞれひいきのメンバーのグッズを見ているんだろう。 「この時間に、服買いに行きたいよぅ・・・」 もうお気に入りの埋めさんグッズは手に入れた。尾行以外の理由で、これ以上ここにいる理由は別にない。 ここ見た後はもう寮に帰る予定だったはずだし、ほんの5分だけでも!だめかな・・・? 「あら・・・?えりかさん・・・?」 甘い誘惑と戦っていると、急に目の前に見知った顔が現れた。 「わぁっ!お嬢様!」 「えり?」 「・・・と、舞美」 ショップの紙袋を手に提げた2人が、目をパチクリさせて私を見ている。バ・・・バレてもーた!レジにいたとは! 「あの・・・ごめんなさい!決して邪魔するつもりでは」 「・・・ウフフ。もう、えりかさんたら心配性なんだから。そのお洋服、動物園もお楽しみになったみたいね」 「えっ、えりも動物園にいたの?一人で?奇遇だねー!」 「いや、舞美・・・」 舞美はともかく、お嬢様は尾行されていたことに気がついたみたいだった。だけど特に怒っている様子もなく、「素敵なトレーナーね」なんてのほほん笑顔で私の傷をえぐってくる。 「うぅっ・・・お嬢様ぁ、実はかくかくしかじかで」 「まあ、そうだったの。災難だったのね。でも、大丈夫よ。後でめ・・・村上さんに染み抜きを頼みましょう。千聖のコートをお貸ししたいけれど、サイズが合わないかしら」 半ベソ状態の私を、お嬢様は優しく慰めてくれた。お姉ちゃんモードになると、とたんにしっかり者になるのが不思議なところだ。 そんなお嬢様につられたのか、目をらんらんとさせた舞美が力強く肩を叩いてきた。 「えり、安心して!私こんなこともあろうかと、ちゃんと着替え用意してきてるから!舞美の服貸してあげるっ」 「え、あると思ってたんかい」 「さ、こっちこっち!ずっとここにいたら舞にバレちゃうから。トイレで着替えよう!」 「ウフフ、いってらっしゃい。あせらなくて大丈夫よ」 あの、気持ちは嬉しいけれど、舞美のモサフリワンピはちょっとうわやめろ何をする! 栞菜たちにどう説明しよう、なんて場違いなことを考えながら、私は登山リュックを背負った舞美に引きずられて強制連行されていった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/322.html
前へ 「そ、そんなに仲良くなりたいならさー、もぉが紹介するよ?千聖食いしん坊だから、ランチとか誘ったら絶対ついてくるって。」 「梨沙子から誘ってもいいけど?」 「えー、そういうんじゃないの。誰かの紹介とかじゃなくて、もっと自然な流れで運命的な友情がぁ」 ―めんどくせぇ・・・ 2人の唇が同時にそう動いた。め、めんどくさいってぬゎんですか! 「もーいい。うちはうちのやり方でお嬢様のこと調べ上げてやる!」 自分の頭から湯気が立ってるのがわかる。勢いよく立ち上がると、私は屋上の扉の方へ歩いていった。 「くまいちょー、アドバイスが欲しかったらいつでも言ってね?ウフフ」 私のプンプンなんてもう慣れっこなんだろう、ももは余裕で手をひらひら振ってきた。何か悔しい! 「くっそー・・・」 独り言を言いながら廊下を進む。かなり大またでわき目も振らず歩いていたら、階段との十字路のところで小さな人影が飛び出してきた。 「ひゃあ!」 「きゃん!」 避け切れない!そう思った私は、とっさに手を伸ばして、その体を抱きとめようとした。・・・けれど、運動オンチな私は結局体勢を整えることができなくて、その人の腰を掴んだまま、思いっきりしりもちをついた。 「いたたた・・・」 「おじょじょおおじょ、お嬢様!大丈夫ですか!お怪我は!?」 「え、ええ、私は大丈夫ですけれど・・・」 間髪いれずに、真っ青な顔のなかさきちゃんが飛び出してきた。そして、どういう力加減でそうなったのか、私の上に馬乗りになっているその生徒――千聖お嬢様、の体をペタペタと触っている。 「もー、友理奈ちゃんたら!お嬢様がお怪我でもなさったらどうするの!」 「ひどい!うちの心配はしてくれないのなかさきちゃん!」 「どーせまた変なこと考え込んで、前方不注意だったんでしょ!?それにその髪!巻かない方が友理奈ちゃんは可愛いって言ってるのに!」 「それ今関係ない!」 どうも私となかさきちゃんは、顔を合わせればこんな言い争いばっかり。私は廊下にねっころがったまま、顔を覗きこんでくるなかさきちゃんに反論した。 「――まあまあ、それよりお嬢様、熊井ちゃんの上からどいてあげてください?熊井ちゃんも、しまパン見えてるから。」 そんな微妙な空気を、ハキハキした明るい声が遮ってくれた。 「茉麻ぁ・・・」 オロオロするお嬢様を後ろからひょいっと抱え上げて、私のスカートを直してくれたのは、学年1個上の茉麻だった。 「全く、君達はトムとジェリーだね。」 そんなことを言いながら、茉麻は強引に私となかさきちゃんを握手させた。 私は口げんかを途中で止められるのはあんまり好きじゃないはずなんだけれど、茉麻みたいにカラッとしている人は別だと思う。お母さんに仲裁してもらった姉妹みたいに、「ごめん」「なっきぃもごめん」なんてどちらともなく謝って、変な空気は自然に解消された。 「ごめんなさいね、千聖も生徒会のお手伝いの段取りを考えていて、前を見ていなかったの。腰、打ってしまったようですけれど・・・大丈夫ですか?」 千聖お嬢様は体を起こした私の前にひざまずいて、じっと顔を見つめてきた。 こんなにお近づきになったことは今までなかったから、ちょっとだけドキドキする。 ビー玉みたいな目。バニラみたいないい香り。ふわふわした喋り方。とても、もも達が言うようなおてんばなタイプには思えない。でも、実際に私もキャッキャとはしゃいでる姿は見たことがあるわけで・・・何ていうか、ギャップがある。どういう人なのか、うまく分類できない。 「熊井ちゃん?平気ならそろそろいいかな。今ね、生徒会で使う書類運んでたんだ。」 そのまま無言で見つめ合ってると、茉麻が苦笑まじりに私とお嬢様の間をチョップで遮った。 「あ、そうなんだ。うちは大丈夫。何か、驚かせてしまってごめんなさい。」 「いいえ、こちらこそ。大きな大きな熊さんに、ケガがなくてよかったです」 ――大 き な 大 き な、く ま さ ん 「あの!私は熊井です!くまさんじゃなくて!あとそんなに大きくないんで!」 いや大きいよ、という茉麻のツッコミは受け流して、私はお嬢様の両肩をガシッと捕まえた。 「ひっ」 そういえば、お嬢様は梨沙子のことも「すぎゃさん」とか変な呼び方をしていた。ここはちゃんと直してもらわないと、今後も「大きな大きな(ry」呼ばわりされたらたまらない。 「何か違う呼び方にしてください!ゆりな、でもゆり、でもいいんで!熊さんとかゴツイし!」 「あら・・・どうしましょう、そんな、急に言われても。大きな熊さんたら」 「ぬゎんで大きな熊にこだわるんですかぁ!」 せっかく空気が緩和されたと言うのに、ムキになる自分を止めることができない。だんだん人が集まってきて、そろそろヤバイと思いつつ、私は引くに引けなくなってしまっていた。 「まあ、呼び方はまた後で決めればいいじゃん。ね?熊井ちゃんは千聖お嬢様と仲良くなりたいんだよね?」 無意識に茉麻に顔を向けると、いつものお母さんな表情で助け舟を出してくれた。私は無言でぶんぶんうなずくと、とりあえず「ごめんなさい」と驚かせてしまったことをお詫びした。 「あら・・・私も、大き・・いえ、くま、くまい、さんと、仲良くなりたいわ。」 「・・・まあ、お嬢様がそうおっしゃるなら。なっきぃも今度時間があるときに、お膳立てさせてもらいます。キュフフ」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/881.html
前へ 執事さんが去ってしまうと、僕の隣りにはこの人だけとなった。 愛理ちゃんが僕の隣りに・・・ また得意の妄想で変なことでも考えてるんじゃないかって? とんでもない!!! この状況、すっげーキツいんですよ。 僕にはただただプレッシャーしか感じられない。 眩しすぎて、僕は愛理ちゃんのことを直視することさえできないのだ。 僕は愛理ちゃんとは、一緒にいたいとかそういう願望は不思議なほど出てこないんだ。これ本当に。 むしろ、愛理ちゃんと2人っきりになることなんて、なるべく避けたいとさえ思っている。 僕ごときがそんなの恐れ多すぎる!滅相も無い!!って。 Buono!のライブ、ステージの上でまばゆいばかりの輝きを放っている愛理ちゃん。 あの姿を一度でも見てしまうと。神々しいまでのあの姿を。 (あぁ、そういえば桃子さんもいましたっけね。そのステージには) 彼女の持っているそのオーラを、僕なんかが一緒にいたりすることで何か悪い影響を与えちゃうんじゃないかと、そればかり気になって。 愛理ちゃんのそばにいるってことは、そのような凄い罪悪感に苛まれることを覚悟しなければいけないんだから。 それでも、やっぱりついチラッと横を見てみたりする。 その視線を彼女も感じたのか、こちらをやはり横目で見てきた彼女と目が合った。 ちょっと目尻の下がったその大きな瞳。 その瞬間、僕は意識が飛んだ。 その目で見られて落ちない男なんていないだろうな、なんて思ったのだけ憶えている。 そして、そのあと数分間の記憶が僕には全く無いのだ。 ロボットのようにぎこちない動きになっているのを自覚しつつしばらく歩を進めると、ようやく他の人の姿が目に入ってきた。 現れたのは、これまた美しい・・・・ なんだ、このお屋敷!本当にここは現実空間なのか!! その人の美しいたたずまい。完璧な立ち姿。 お姉ちゃんだ!! 彼女も僕の姿に気付いたようだ。 「あ!!」 すると、お姉ちゃんはポンと手をたたき、明るい声をあげた。 「なるほど! プールでリハビリをされに来たんですね!!」 僕に声をかけるよりも早く、御自分で回答を見出した舞美さん。 いや、僕はそんなつもりでプールに来たわけじゃないんですけどね。 「その後の経過はいかがですか?」 「えぇ、おかげさまで。とても順調です」 「それは良かった。本当に!」 ホッとした様子が表情からも伺えるお姉ちゃん。 僕のことを心配していてくださったとは! 本当に光栄です。 お姉ちゃんを安心させてあげられたなら、ここで会えて本当に良かったな。 「今日は熊井ちゃんが一緒じゃないんですね!」 「いや、別に僕は熊井ちゃんといつも一緒って訳ではなくt 「あ!なるほど! 愛理が付き添って一緒にプールでリハビリをするってことか!」 「え?いや、愛理ちゃんとはさっきそこで偶然会っただけd 「えー、でも、愛理と一緒って、それ、いいのかな?」 その言葉に僕が訂正を入れる暇も与えられず、お姉ちゃんのお話はどんどん進んでいく。 「だって、そんなの熊井ちゃんに怒られちゃうんじゃない? とかいってw」 誤解された設定はまだそのままのようだ。 今日もまたそんな誤まった認識で盛り上がってる様子の舞美さん。 お姉ちゃんって本当に相当思い込みの激しい人なんだな。 ここまで舞美さんの言う誤ったことを黙って聞いていた愛理ちゃん、 お姉ちゃん、僕の言うことなんか聞いてくれなさそうだし、これはひとつ愛理ちゃんの方から訂正してくれないかな。 なーんて思って、彼女をチラッと見た僕の目に入ってきたのは、意味ありげな微笑を浮かべている愛理ちゃんだった。 さっきもちょっと見たその微笑。どういう意味なんだろう・・・・ 「ケッケッケッ」 でも愛理ちゃん、そこはハッキリと否定してくれないと。 笑ってる場合ではないんですよ。 それから彼女は目を細めて僕のことを見てきたのだが、まるで僕の反応を伺ってるようにも見えたのは僕の考えすぎ? 愛理ちゃんのそんな表情で見られて、また心が乱されてしまう僕。 そんな僕を見たあと、愛理ちゃんは、ようやくお姉ちゃんの言ったことに言及してくれた。 「舞美ちゃん、それ違うよぅ。わたしはそこで会っただけ」 そう。それでいいと思います。 うん、そうです。愛理ちゃんの言うとおりなんです。分かってもらえましたか?舞美さん。 やっとお姉ちゃんの間違った認識を、ちゃんと正しい方向に導いてくれた。さすが愛理ちゃん。 と思ったのだが、続けて愛理ちゃんの言ったことは・・・ 「私たち寮生も気を使うよねー。もしここで何かあったら熊井ちゃんに怒られちゃうから。ホント緊張するw ケッケッケッ」 「そうだよね! うん、やっぱりそうだったのか!! さすが熊井ちゃんだ。すごいね!!」 あれ? 何かまた話しがこんがらがってきているような・・・ 話しの流れが僕には全く分からないが、でも確かに何かがおかしいような気がする(なにが「凄いね!」なんだろう・・・)。 妙に楽しそうな愛理ちゃんと、妙に納得顔のお姉ちゃん。 そんな最強ツートップを前にして、その2人のやりとりに僕ごときがもはや口を差し挟める訳も無かった。 と こ ろ で 、 現れたお姉ちゃんのその姿は愛理ちゃんと同じだった。 どうやらお姉ちゃんも水着姿で、その上からパーカーを羽織っているようなんだ。 それで、あの、そのですね、何といいますか、えーとですね、お胸のところのそのとても立派な隆起。 すごい・・・ お姉ちゃんって、着痩せするタイプだったんだ。 その胸の大きな膨らみ、さすが女子大生、って感じ・・・ こんなきょにゅうの人、僕の周りにはちょっといないから思わずそこに視線が吸い込まれゲフンゲフン。 あ、待てよ。そういえば、千聖おじょ(殺気を感じたので以下略 そのお姉ちゃんのフォトジェニックな立ち姿。まるでグラビアアイドルのようだ。 男子高校生には刺激が強すぎる・・・・ これは是非そのパーカーを脱いだところを見てみたいな・・・とか思ったりしてゴホンゴホン そんな僕の心の内なんか全く関知していない様子のお姉ちゃん。 とことん明るい彼女は、更に僕を喜ばせてくれるようなことを言ってくるのだった。 「プールサイドにお嬢様がいらっしゃると思いますから、そちらに行ってみましょう!」 !!!! ようやくお嬢様のもとにたどり着ける!? しかも、お姉ちゃんも一緒にプールサイドへ行っていただけるんですね! お姉ちゃんがこんなに僕に親切にしてくれてるんだ。それだけでも僕は幸せなのに、その上これから一緒にプールサイドに! プールサイド。そこに着けばお姉ちゃんと愛理ちゃんもきっと水着姿に・・・・ そしてそこにいるお嬢様も・・・・ 歓喜した僕の頭の中はすでにお花畑となり、雲の上を歩いているかのようにフワフワとした気持ちになっていた。 記憶が飛び飛びになりながらも足を進めていき、そして建物の角を曲がったとき、プールが目に入ってきたのだ。 ついにお屋敷のプールへとやってくることが出来た。 あの日を思い出す。 熊井ちゃんと門の前まで来たのに、ここまでたどり着けず病院送りになってしまったあの日。 あの日からの毎日、それはいろいろなことがあった。 でも、ついにここまでたどり着くことが出来た。 長かった。 ここまでの道程はひたすら長かったよ。 特設らしいそのプール。 すごいなあ。敷地内にこんなものがあるなんて。さすがお嬢様のお屋敷だ。 でも何が凄いって、プールを作ってしまうというそんな発想をした人が一番凄いと思う。 「こちらがプールになります!」 何故か得意気な顔のお姉ちゃん。 にこやかな笑顔。とてもご機嫌な様子だ。 そんなご機嫌なお姉ちゃんが振り向きざま口にしたのは、僕にとって予想外の人の名前だった。 「ねぇ、なっきぃ! 彼ね無事に退院できたんだって! すごいね!!」 プールサイドのなかさきちゃん、まさかお屋敷に闖入者(あろうことか男子)が来るなんて夢にも思ってなかったのだろう。当然のことだ。 お姉ちゃんの言葉に振り向くと、その大きな目を一杯に見開いた。(その黒目の、大きくてまん丸なことといったら!) そして、そこにいた僕を見て、それはそれは盛大なリアクションを取ってくれた。 彼女の叫び声が庭園中に響いた。 「ギュフーーーーーーーーーーーッ!!!!11」 * * * * 舞美さんのその言葉が向けられた先を見るとそこには、なかさきちゃんがいた。 デッキチェアにうつぶせになりながら頬杖をついているなかさきちゃん。 けだるそうな表情とともに、アンニュイなふいんきを醸しだしている。 そしてもちろんというか何というか、彼女は、水着姿だった。 しかもその水着、彼女が身に着けていたのは、ビ、ビキニだったんだ。 あの風紀委員長さんが・・・ 僕にはとても厳しいなかさきちゃん。 その彼女のそんな姿を見て、僕は逆に緊張を覚えてしまい、だからいま妙に冷静になりその光景を見つめてしまった。 へー、なかさきちゃん、意外とスタイルいいんだな、なんて思ったりして。(プリケツ・・・) 女子校の子の方がかえって、大胆な水着に抵抗ないのかなー?どうなんだろう。 でも、ビキニ姿なんてものを見せられてしまうと・・・・・ 僕は男子だから、いや、その、やっぱり、こういうとき真っ先に目がいくところがあるのだ。 なかさきちゃん、意外とあるんだな。 何がって・・・その・・・おpp 予想外に立派な、彼女のその胸の谷間なんてものを見てしまい、これにはさすがにドキドキする。 そして視線はすっかりそこに釘付けに。 そんな僕となかさきちゃんの視線が重なった・・・・ まぁそんなわけで、先程のなかさきちゃんの絶叫となったんだ。 僕の姿を認めて悲鳴をあげたあと、ひっくり返っちゃってるなかさきちゃん。 あ、彼女のおヘソの斜め下。そんなところにホクロがあるんですねグヒョヒョ。 でも、大丈夫なのかな、これ。 メイドさんとかを呼んだ方がいい状況なんじゃないだろうか。 そんな、なかさきちゃんが白目を剥いているような様子なのにも関わらず、そのことは全くスルーしている様子の舞美さん。 愛理ちゃんも相変わらずにこやかな微笑みを浮かべている。 こんな状況なのに、お姉ちゃんも愛理ちゃんも別にそれを変だとは全然思っていないのんびりとした感じ。 なんなんだ、何かがおかしくないか? お2人のこの緊張感の無さはなんなんだ。 お姉ちゃんに愛理ちゃんという方々に僕がこんなこというのもアレですけど、この人たちの取っている反応は何か変じゃないか? なかさきちゃんのその状況、そんなの別に珍しくもなんとも無いといわんばかりじゃないですか・・・ そんな混乱した気持ちを僕が抱いていると、舞美さんが首を傾げてこう言った。 「あれ、お嬢様は? ここにいないの?」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/567.html
前へ “それでは菅谷さん、類は友を呼ぶという言葉を、身近な例に置き換えてせつめいしてください” ついこないだの現代文の授業で、私は先生から指名されて、こんなことを聞かれた。 その時、自信を持って「美人のまわりには美人が集まる!!」って答えたんだけど、みんなのの反応は微妙なカンジだった。 絶対あってると思うんだけどなあ。だって岡井さんとこの寮生とか、クラスの仲良しグループとか、だいたいそんな感じじゃん。それに・・・ 「?なにか??」 「あっ、・・・べつに。スミマセン」 そう、この人も。 今、私の隣でBuono!ライブのアンコール開演を待っている、この超超超目力って感じの美人。・・・岡井さんちの、メイドさん。 この人は、私の夏焼先輩の特別な人なのだという。ほら、やっぱり類友じゃん。・・・特別ってのが思いっきり引っかかるけど。 まあ、確かに? これだけくっきりしたパーツで構成されたお顔なら、私の夏焼先輩の隣にいても見劣りするということはないだろう。 でも、特別な人って何。特別な人って。とくべ 「あの、ごめんなさいね」 「あばばばばこちらこそすみません!」 調子乗った心の中を読まれたのかと思って(岡井さんのまわりはそういう人が多い!)とっさに謝ると、思いっきり首を傾げられてしまった。 「いや、えーと、ライブ、最前で見たかったでしょう?みやびからのお願いとはいえ、こんなところで」 ――ああ、そのことか。 「別にいいです。アンコールまでは一番前にいたし」 「でも、途中で泣きながら飛び出していきましたよね」 うぐぐ。見られていたとは。 この人、あんまし遠慮しないでズバズバ言ってくるんだ。あんまり私の周りにはいないタイプだ。まあ、K井ちゃんぐらいだろ。他に該当者がいるとしたら。 私の行動を、いろいろ疑問に思うのも無理はない。 今日は朝から校門の前でお手製のビラを配布して(他校の男の子とかにもあげたもん!)、お手製の夏焼先輩ハッピを着込んで、最前ではしゃぎまくってた私がどうして、今こうして、7列目の座席に座っているのか。 話は10分ほど前までさかのぼる。 ***** ぐすん、ぐすん 甘くて柔らかい、天女のそれといっても大げさではない夏焼先輩の歌声を背中に、私は暗い廊下で泣いていた。 楽しかったのに。途中までは心から、Buono!ライブを楽しんでいたのに、今はただただ切ないだけ。 だって、今日の夏焼先輩は、確実に恋をしていたから。ステージから。客席にいる誰かに。 最前列の特等席から拝み見た夏焼先輩。本当に美しい。神の化身なんじゃないかと思う。 でもでも、そのいつもより潤んだ瞳も、幸せの余韻が残る目じりの笑いじわも、唇(以下略)とにかく、絶対絶対絶対、夏焼先輩の心はどこか一点に囚われてしまっていたのだ。 そのことに気づいてしまった私は、もうステージを正視することができなくなってしまっていた。 だってだって、そんなのって悲しすぎるじゃん。 私の夏焼先輩が、私じゃない誰かを思っていて、それなのに私はこんなバカみたいに… 「ひっく」 わかってるもん。単なるファンの手に届くような人じゃないって。 勝手に私が好きになっただけだって。 だけどそうやって理屈で片づけられるほど私は大人じゃないし、そんなに簡単な思いでもない。 入学式の日、初めて夏焼先輩を見たときには、あまりの美しさに心臓が止まったみたいだった。 ちょっとけだるそうな表情、かっこよく着崩した制服。友達としゃべってるときだけ垣間見える、楽しげな表情とのギャップ。 あの日から、夏焼先輩の全部が、私の心を捕えている。今この瞬間も。 だから、今ステージを直視することができないこの葛藤…うう、辛いよう。 このハッピも、脱ぎ捨てられたらどんなに楽だろう。でも、そんなことはできない。 だって、私はそれでも夏焼先輩のことが・・・ 「すぎゃさん?」 いつもどおりの変な呼び方で、心配そうな声が頭上から降ってきた。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/882.html
前へ そう、お嬢様はここにはいなかった。 お嬢様だけじゃない。ここには舞ちゃんだっていないじゃないか。 そんな・・・ そのお2人に会えないなんて、そんな事実は受け入れがたい。 せっかくプールサイドまで来たのに・・・・・ 肝心のお嬢様や寮生の皆さんの水着姿が見れないなんて。 見れたのと言えば、なかさきちゃんの水着姿だけか・・・・ そんなことがあっていいのだろうか。 あ、いや、別に水着姿の皆さんが見れなかったのがそこまで残念なのかというとそういうことじゃなくてですね(ほ、本当ですって!)。 ただお嬢様に会えないと、ここに来た意味が無いと言うか・・・ そんな僕にとって救いの言葉を発してくれたのは、天使のような愛理ちゃん。 「ここにいないってことは、あれだね。あっちのミニシアターで時代劇でも見てるのかも」 「そうか、そっちか! よし、じゃあミニシアターに行ってみましょう!」 「舞美ちゃん、わたしはここにいるね。なっきぃが目を覚ますまで私がついててあげるよ。ケッケッケッ」 「うん、わかった!」 そっか、ここで愛理ちゃんとはお別れか。 名残惜しいけど、ちょっとホッとした気分もあるのだ。 これで、ここまで受け続けていた極度のプレッシャーから開放されるから。 ちょっとした安堵感に浸っている僕に、愛理ちゃんが声を掛けてきた。 「お嬢様のところまで私がご案内できませんでしたけど、すみません。今日がいい1日になるといいですね」 そう言う愛理ちゃんは意味ありげな笑顔を浮かべていたけれど、そんな表情も笑顔には違いないわけで。 僕はそれを聞いて、ただ口をパクパクと動かすばかり。 返事をしなきゃ、、、、と思うのに、声が全く出ない。 彼女の言葉に頷き返すのが精一杯。何も言葉が出てこないんだ。 なるほど。さっきの執事さんはこんな心境だったんだろうな。やっと分かったよ・・・ 愛理ちゃんとはそこで別れ、僕は舞美さんの後ろをついて歩いていく。 そのミニシアターとやらには、すぐに着いた。 庭に即席でこんなシアターを作ってしまうということ自体が、平民の理解の範疇を超えている。 そこに、お嬢様は、いらっしゃった。 「失礼します、お嬢様!」 「あら、舞美さん、お一人でいらっしゃったの?」 「いえ。お嬢様!彼が来たんですよ!」 「私にお客様かしら? どなたでしょう」 「まぁ、ももちゃんさん!」 僕の姿を認めると、立ち上がって僕に駆け寄ってきてくださった。 やっと、やっと千聖お嬢様に会えた!! お嬢様!!! 清楚なワンピース。その夏らしく爽やかな格好がとてもお似合いで。 かわいい・・・・かわいすぎる・・・・ そう、千聖お嬢様は水着姿ではなかったのだ。 でも、全然がっかりなんかしていませんよ。(ほ、本当ですって!) むしろ、そのいかにもお嬢様然としている上品なお姿を拝見できたのがとても嬉しい。 だって、僕は普段そんな雰囲気を醸し出している人を目にすることなんか無いんだから。 これが、お嬢様。 いま目の前にいるお嬢様のその上品なお姿に、僕はすっかり目を奪われてしまった。 そして、その、お嬢様のそのお姿、僕の目はですね、やっぱりその、ある一点に吸い込まれそうになるんです。 それはですね、お嬢様の白いワンピースの、こんもりと盛り上がったその(ry まだ信じられないような思いだが、千聖お嬢様は確かに僕の目の前にいるのだ。 その鳶色の瞳で僕のことを見てくださっている。 小柄なお嬢様の、その見上げるような視線。これはヤバい。もうすぐにでも記憶が飛んでしまいそうで・・・ そんな僕にお嬢様がお声を掛けてくださった。 「あの、もう大丈夫なんですか?」 「はい!お陰様で、手術も無事すんで退院できましたので」 「それは良かったわ。本当に安心しました」 僕とお嬢様が交わすそんなやり取りをニコニコ顔で見ていた舞美さん。 そんな舞美さんだったが、そのとき急に思い出したように大きな声をあげた。 「あっ、そうか! やっと分かった!!」 びっくりしたお嬢様と僕が揃って舞美さんを見つめる。 お姉ちゃん、何が分かったんだろう? 「なにかが違うと思って、引っかかってたんです! やっと分かった!!」 「なっきぃのやつ、私が選んだ水着を着てないじゃないか!!」 僕にはそのセリフの意味がよく分からなかったが、お姉ちゃんは「スケスケの方がいいかな?それとも紐のほう?」とか一人で呟いている。 汗をかきかき、お嬢様に明るく告げるお姉ちゃん。 「お嬢様、わたしは寮にあの水着を取りに行かなくちゃいけなくなったので、これで失礼しますね!!」 「あら、舞美さんは本当にお忙しいのね」 「あとは、若い2人でどうぞごゆっくり、とかいってw あははは」 そう言うやいなや、舞美さんは全速力で走って行ってしまった。 慌ただしい人だ、本当に。 走り去っていった舞美さんの後ろ姿を見送ると、僕は改めてお嬢様に向き直る。 「お嬢様、今日はお礼を言いたくて。そのためにここに伺ったんです」 「お礼を? どういうことかしら?」 「いろいろとお気遣いいただいてありがとうございました。お陰様で快適な入院でしたよ」 あの人の存在だけは別とすれば、だけどね。 なんて、今この場にいない人のことを思いながら、お嬢様との会話を楽しんでいた。 「そんな、お礼だなんて。こちらこそ。私は何もお世話できなくて本当に申し訳なかったわ」 「めっそうもないです。お嬢様の手をわずらわせたりするなんて、とんでもないです」 そう言ってお互いを見つめあう2人。そう、舞美さんのいなくなった今、僕らは2人っきりなわけで。 あれ? なんかいい雰囲気じゃないか? 目の前にはお嬢様が。僕を見つめている、その鳶色の瞳で。 僕の思考から、だんだん現実感が失われていく。 こんなところで(お嬢様のお屋敷内ですよ!)思いがけず2人っきりになって、しかもその深い色を湛えた瞳で見つめられたりして。 もう、僕に妄想に入れと言っているようなものじゃないか。 「やっと2人っきりになれましたね」 「えぇ、やっと。この瞬間が来るのをずっと待ってたの。2人っきりになれるこの瞬間(とき)を」 「お嬢様・・・ でも、僕には・・・」 「ダメよ。それ以上は言わせないわ」 「・・・・い、いけません。そんな」 「あら、ここに来たあなたはもう既に千聖のものなのよ。そしてまた千聖もあなたの・・・・ さあ妄想もいよいよここからですよ!というところで、ハッと我に返る。 目の前には、やはりその鳶色の瞳。 その穢れのない澄んだ瞳を見て、僕は自分のした妄想に思いっきり自己嫌悪を覚えた。 お嬢様に対して後ろめたい気持ちで一杯になる。 だから思わず、お嬢様から目をそらしてしまった。 いまハッと我に返ったのは、背中が凍るような悪寒を感じたから。 背後からのはっきりとした圧力。すさまじい負のパワーだ。 本能的に恐怖感を感じて思わず振り向いてみるが、そこには誰もいない。 でも、いま確かに突き刺さるような視線のようなものを感じた。 なんだったんだ今の感覚は。 そんなことを感じていたのだが、一匹の犬が僕の足にまとわりついてきたことでそっちに意識が向かう。 尻尾を振り振り足元にすりよってきたのは、黄金色のミニチュアダックスフント。 このワンちゃんが恐怖に支配されそうになった僕を、お嬢様との幸せな空間へと引き戻してくれた。 ありがとう。お嬢様のお屋敷のお犬様。 「あら、リップはももちゃんさんのこと好きなのかしら。やけに懐いているみたいだけれど」 「かわいい犬ですね。リップという名前なんですか」 僕はしゃがんで、リップと呼ばれたこの犬の頭をなでてあげる。 優しい顔をしてる犬だ。 犬といえば、ミントは元気かな。久し振りにミントと遊びたいな。 「犬、好きなんですか?」 「えぇ。好きです。犬好きな人に悪い人はいないとよく言いますよね。その言葉通りに僕m 「まぁ、そうなの!千聖も犬が大好き。ここにはもう一匹いるのよ。同じミニチュアダックスだけどチョコレート タンの方がぱいんっていうの」 しゃがんだ僕が見上げるお嬢様のそのお顔は優しく微笑まれていた。 上品なその柔らかい笑顔。細められた目を見ているだけで幸せな気分にさせてもらえる。 あぁ、今日ここに来て良かった。 心をキレイにしてもらえるような、お嬢様のそんな笑顔を見ることが出来たんだから。 ゾクッ・・・ いま再び、鋭い悪寒のようなものを感じた。それはもうハッキリと。 まるで、見えないところからスナイパーに狙われているような、この緊張感。 僕はいま千聖お嬢様と2人っきり。幸せな状況といえるだろう。 だが一方で、これはやはりヤバい状況におかれているのだろうか、という危惧も感じるわけで。 だって、千聖お嬢様と2人っきりでいるなんてことは僕には許されるようなことではないのだから。 それぐらいのことは自覚している。 さっきから本能的に身の危険を感じる。 そして、その危険は差し迫っているような気がするのだ。 危機感がリアルに感じられてきた僕は、もう落ち着いてなどいられない気持ちになっていた。 そんな僕の感じている緊張など全く関知していない様子のお嬢様が柔らかい口調で僕に言った。 いま緊張を感じつつも、お嬢様とお話ししている間だけは、そこから開放されるんだ。 「もう舞にはお会いしたのかしら?」 「いえ。舞ちゃんには、今日はまだ会っていません」 「それなら、舞にも会って行くといいわ。あとで千聖が寮に御案内しますから」 「ほ、本当ですか!!」 千聖お嬢様が自ら僕をわざわざ寮にご案内してくださるんですか!! しかも、舞ちゃんのお部屋に? 愛理ちゃんが言ってくれた通りになった。今日はいい1日になる!! 最高の1日に!! これは、僕にとって今日は運命的な1日になる予感が。 後年我が人生を振り返ってみたときに、今日がターニングポイントとなるんだろう。 そんな歴史的な1日になるんだ。今日は。 そう、そのはずだった。 そのとき、ふいに僕の名前が呼ばれたりするまでは。 幸せをつかみかけているこのタイミングを狙ったかのように、僕のことを名前で呼びつけてくる人。 その人とは、もちろん・・・ -------------------- 「おい、なに屋敷内に男を入れてるんだよ、この執カス」 「本当に使えないでしゅね」 「オメーこの責任はとってもらうかんな」 「そんな・・・・ それよりも萩原さんが対応すればいいじゃないですか、そんなに言うんなら。来てるのはあの少年なんだから。こんなところから双眼鏡で監視なんかしてないで」 「ああん?」 「ひぎいっ!」 「おっ、あいつ振り向いてこっち見てきたけど、気付いた?」 「向こうからこっちは見えるわけないでしゅよ。この距離なんだから」 「って、おい、見ろよハギワラ。あいつ、お嬢様に手を出そうとしてるかんな。いいのかよ!奴の好きにさせて!!」 「もし何かあったら、もちろん許さないでしゅよ?」 「・・・・真顔が怖いよ、舞ちゃん」 「でも、大丈夫。心配ないでしゅ」 「えっ? どういうこと?」 「ほら、来たみたい。これでもう終わりだろうから」 「お!熊井ちゃんだ! なるほどねw 舞ちゃんが呼んだの?」 「舞は知らないでしゅ」 「ふーん? ま、嗅ぎ付けて来たのか。さすが熊井ちゃん」 「うん。さすがとしか言いようがないね、熊井ちゃんは」 「でも、どうして熊井ちゃんが屋敷の中に入れたのか。それを考える必要があるでしゅね」 「なるほど。あ の 熊井ちゃんをそう易々と屋敷内に入れさせるほどここのセキュリティーは甘くないはずなのに。どうやって門を突破したんだろう・・・」 「!! そうか、めぐぅか!」 「間違いないでしゅ。熊井ちゃんを手引きしてあそこに向かわせたのは鬼軍曹だね」 「あいつを追い返すのに自分の手を汚さず、ちょうどいいところに来たとばかりに熊井ちゃんを使ったってことか」 「鬼軍曹の策士っぷりには驚かされましゅ。どうすればそんな策略をいつもいつも思いつくのか。ま、持って生まれた性格なんだろうけど」 「あ、気付いた。あーぁ、腰を抜かしちゃってるでしゅ」 「なんだよ、あのコテコテのリアクションはww」 「なんかサイレントムービーの喜劇映画でも見てるみたいでしゅねw」 「首根っこ掴まれて引きずられてるしwww 録画しておけば良かったかんなww」 「こっちも面白いことになってましゅよ」 「あー、舞美ちゃんが戻ってきたんだ」 「あの水着、例のやつでしゅね。ふふん。なっちゃん大ピンチ」 「わざわざ持ってきたってことは・・・ 舞美ちゃん、今すぐに着替えさせる気なんだ・・・ 今いるあの場所で・・・ あのへんたい水着に・・・」 「あ、なっちゃんも気付いたみたい。あははは、驚いてる驚いてるw」 「毎度のこととはいえ、これはなっきぃにしかできないハマり役だかんなw」 「無駄な抵抗、という言葉がこれほど似合う光景もないでしゅね。あ、羽交い絞め決まった」 「うわー、瞬殺で剥ぎ取られて・・・ えげつないわー舞美ちゃん・・・」 「同情を禁じえないでしゅね・・・」 「なっきぃご愁傷様だかんな・・・」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/496.html
前へ 朝からすっごい殺気立ってるね、なんて今日何人ものクラスメートに言われた。 最初は「別に普通だよ」なんて言ってたけど、“あの時間”が近づいてくるにつれ、そんな余裕もなくなっていった。 「ねえ、すぎゃ・・・」 「ごめ、今無理!あばばばば」 クラスの出し物・ドーナツ屋さんのデコレーション作業を淡々とこなしながらも、私の心臓は破裂寸前と言っても過言ではないほどドクドクと鳴っていた。 学園祭、二日目。 今日は決戦の日だった。 「あと10分か・・・」 さっきから腕時計を15秒置きに確認しては、そわそわした気持ちでため息をついている。 明日開催される、ももと愛理と、・・・それから、いとしのあの人の学園祭ライブ。 その指定席のチケットの配布が、もうすぐ行われるのだ。 「すぎゃさん、今人手も足りてることですし、もし・・・」 「それはダメ!仕事は仕事だもーん、時間まではちゃんとやるから!」 「まぁ・・・」 ――もちろん、是非にとお願いしてチケット配布所へと走り出したい気持ちはある。 だけど、自分で言うのもなんだけど、私は結構生真面目というか、無駄に自分に厳しいところが結構ある。 自分だけ特別扱いとか、ルールを無視してまで入手するっていうのはやっぱりダメだと思う。同じように、並びたくても並べない人たちに申し訳ないじゃないか。 例えば、禁止されているけど配布場所の近くに潜んで時間ギリギリまで待つとか、それこそ、ステージ裏方の岡井さんに頼み込んでどうにかしてもらうことだってできるのかもしれない。 でも、そんなことをして掴んだチケットでライブが楽しめるわけないし、・・・堂々とあの人のことを応援できなくなってしまうから。 いくらガチヲタえ、けじめって大事やん? それに、万が一配布が終了してしまったとしても、ちゃんと立ち見の場所だって設けられているんだから大丈夫。・・・ほんとはいやだけどね。できたら指定席で見たいけどね。 「すぎゃさん・・・・」 「えっ」 そんな風に思いをはせていると、急に岡井さんのドアップが目のまえに迫っていた。 目、超ウルウルしてる!仔犬みたいな瞳で見つめられたら、どうしていいかわからなくなって、金縛りにあってしまう。・・・相変わらずの魔女っぷりだ。 「私、とても感動したわ・・!」 「え?はい?」 「すぎゃさんの、明日のステージを応援なさる真摯なお気持ち、本当に・・・」 「げっ、あばばばばばば」 ――どうやら、私は頭の中でゴチャゴチャ考えていた“清く正しく美しいヲタ論()”を、無意識に口に出してしまっていたらしい。は、はずかしすぎる! 「素晴らしいお心がけね。私もステージ業務に携わる一構成員として、すぎゃさんには敬意を表させていただきたいわ。」 「あ・・そう?あはは・・・どうもどうも」 ――口は災いの元、か。 相手が天然の岡井さんだったからよかったものの、あやうくクラスのみんなに、私の危険な一面を知らしめるところだった。 「つきましては、すぎゃさん、私、御一緒するわ。」 「んん?」 岡井さんが私の手をギュッと握る。 「ええ。このお店番が終わったら、チケット配布所に行きましょう。千聖も入手しておきたいと思っていたの」 「えっなんで?岡井さんステージ裏方じゃーん。袖から見れるってか、お仕事あるんじゃないの?」 「ああ、それはね・・・私のチケットじゃなくて、その、うちのメイドの分を」 「メイドさん。」 聞けば、今回の夏焼先輩(ソーリーアイリーモモコツグナガー)のライブを、どうしても岡井さんのおうちのメイドさんに見てもらいたいらしい。 学外の人の分も代理でチケットを受け取る事ができるから、その枠を狙っているみたいだ。 「へー、メイドさんのためにそこまで。面倒見いいねえ」 「え・・ええ。頑張って取らないと。私もすぎゃさんと同じよ」 「同じって、何が?」 岡井さんは妙に神妙な顔をしている。 それはライブを楽しみにしているというより、どこか思いつめたような・・・緊張感を感じさせる表情で、私の岡井さん像(いつもぼけーとしている)とは全く違う人物のように感じられた。 「私ね・・・どうしても、めぐ・・・彼女に、明日のステージを見て欲しいの。それも、客席で。まっすぐ。しっかりと。 そのためにも、いい席のチケットを確保しないとね」 「岡井さん・・・」 一体、なぜそこまでメイドさんのために。 その意図はよくわからないけれど、少なくともお金持ちパワーで良席に忍び込ませようとか、そういうずるい発想じゃなかったのには好感を持った。 「メイドさんと席が近かったら、一緒に盛り上がろうかな。岡井さん、紹介してよね。夏焼先輩のファンになってもらわなきゃ。イヒヒヒ」 「まあ・・・みやびさんの?めぐが?・・・・・・・うふふふふ」 突然、岡井さんは目を三日月にして笑い出した。 はずみで手元のドーナツのデコレーションもぐんにゃり歪んで、「失礼」なんてすましたこと言いながら、爆笑は止まらないみたいだ。 「うふふふふふ」 「え、何?私何か言った?」 さっきのシリアス顔との対比に混乱する。 そんなに、私のガチヲタっぷりは笑えるのか!何か恥ずかしいんですけど! 「うふふふごめんなさい、すぎゃさん。違うの。ただ、彼女が夏焼さんうふふふふ」 「・・・・ちょっとー!梨沙子のことはいいけど、夏焼先輩を笑いものにするなんて!」 「うふふそうではなくてうふふふふ・・・ごめんなさい、私ったら」 一通りたっぷり笑うと、やっと気が済んだのか、岡井さんはまた真顔に戻った。・・・私も人のこと言えないけど、感情が移ろいやすくて忙しい子だなあ。 「・・・ぜひ、うちのメイドにみやびさんの話をして差し上げて。むしろ、私からお願いをさせていただくわ」 「本当?私、夏焼先輩の話し出すと高確率で引かれるけど大丈夫かな?」 先日も、熊井ちゃんに夏焼先輩トークを仕掛けたところ、40分後には泣きながら逃走されるという事件を起こしたばっかりなのを思い出した。 本人の前に出ると何も言えなくなってしまう反動で、つい友達に語る時は熱くなってしまう癖があるみたいだ。 「きっとメイドも喜ぶわ。他でもないみやびさんのことですもの」 「ん?それどういう・・・」 「・・・あ、ああ、それよりも、もうそろそろ時間だわ。切り上げましょうすぎゃさん」 「え、もうそんな時間!?わかった、急ごう!」 ――岡井さんが口ごもった言葉の意味は気になるところだけど、それより今はチケットの確保優先で。 もたもたエプロンを脱いでいると、後ろに回りこんだ岡井さんが、なれた手つきでシュルンと私の腰紐を抜いた。 「おお、さすが長女!」 「さあ、参りましょう。廊下は走らず、競歩でね!」 「競歩て」 シャキッと背筋を伸ばして、わっしわっしと廊下を進んでいく背中を追いかけて、私もチケット配布場所を大また歩きで目指した。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/768.html
前へ 舞様が僕のために時間を割いてくださるなんて。 しかも、ここでは話してる時間が無いなんて、そんなに込み入った話しなのか。 ひょっとしたら、これはひょっとして・・・ 舞ちゃん、僕のことを、ついに・・・ 舞ちゃんの問いに対して、僕は直立不動で返答した。 「も、もちろんです。僕の予定はいつでも舞ちゃんに合わせますから」 あ・・・ 今日の放課後・・・ 今日は特に熊井ちゃんから直々に頼まれたことがあったんだっけ。 どうすればいいんだ、これは・・・ なーんて。 そんなのは悩むまでも無いことだ。 もちろん舞ちゃんの方を優先するに決まっている。即決だ。 何とかーず、っていうそんな訳の分からないユニット、心底どうでもいい。 そんなものには関わらずに済ませたいし。ちょうどいい。 まぁ、後のことを考えると恐ろしいことになるのは間違いないんだが、今はそんなこと言ってる場合ではない。 だって、いま僕の目の前にいるのは舞様なんですよ。 僕にとって最優先事項が何であるかなんて、そんなの分かりきったことじゃないですか。 それでも返答のあと一瞬あいたその間に気付いたのか、再度舞ちゃんが聞いてきた。 「なにか用事でもあった?」 「いえ、とんでもない。何にも予定なんか最初から全く全然入ってないですから。大丈夫です」 「そう。じゃあ放課後、あのカフェだっけ?そこに行けばいい?」 舞ちゃんと一緒にカフェでお話し!! 夢のような話しでとても心がときめくんだけど、その場所はダメだよ。あそこはもぉ軍団のすくつなのだ。 そんな危険な場所へ舞ちゃんに来て頂くことは出来ない。 あそこでは僕が舞ちゃんと素敵な時間を過ごしているところに、余計な登場人物がやってくる可能性を否定できない。 というか、そういう時に限ってあの人たちはやってくるのだ。 そんな所で舞ちゃんと僕の落ち着いた時間が確保できるはずも無いだろう。間違いない。 第一、今日は何といっても熊井ちゃんが新しいグループを作ったとかで何かえらい張り切ってるのだ。 だから、あそこはダメだ。絶対にダメ。 「いや、あそこはちょっと・・・」 しばし思案する。 放課後に高校から向かう僕と学園から向かう舞ちゃんが会うには、いったいどこがいいのだろうか。 僕らの逢瀬に相応しい場所とは。 必要条件は、学園からカフェに向かう熊井ちゃんに絶対に会わずに済んで、なおかつ大学から向かってくる桃子さんのルートからも外れている所。 そして、雰囲気の落ち着いた場所がいいな。そう、恋人同士が待ち合わせをするような。 僕の優秀な頭脳がフル回転して、いくつかの候補の中からその条件を満たす最適な場所を抽出する。 「じゃあ、お屋敷のそばのあの公園。そこの噴水広場ではどうでしょう?」 「いいよ。じゃあそこで」 * * * * 今日は一日、授業中もずっと上の空だった。 放課後になれば舞ちゃんに会えるのだ。 まさに、輝け!放課後。 さっきは舞ちゃんのお願いだから、後先考えずについそっちを優先する返事をしてしまった。 でも、その時の興奮が落ち着いてきた今、事の重大さを考えるとじわじわと恐怖心が湧き上がってくる。 熊井ちゃんから直々に頼まれたことを反故にする。 その文字列を見るだけでも、体の芯から震えるほどの恐ろしさが襲って来る。 あとですげー怒られるんだろうな・・・ どんな恐ろしい制裁が待ってるんだろう。想像するだに恐ろしい。 でも、舞ちゃんが僕に会って欲しいと言って来たんだ。 僕は例え槍が降ってこようとも、舞ちゃんに会いにいくだろう。 まぁ、天から降ってくる槍よりも、憤激しているだろう熊井ちゃんの方がずっと怖いけど。 それにしても、舞ちゃんが僕に話しって、何だろう。 舞ちゃんがわざわざ僕を呼び出したりするなんて、どういうことなんだろう。 何も無いのにわざわざ呼び出したりするはずがないよね。何かあるんだ。何かが。 もしかして、舞ちゃん僕の気持ちに応えてくれる決心がついたとか・・・ うん、そうかもしれないな。 だって、僕が舞ちゃんに告白して以来、初めて舞ちゃんが僕と2人っきりで向き合いたいって言って来たんだから。 それを彼女の方から言ってくるなんて、これはもう間違いないでしょ! 昼休み、級友と弁当を食べているときも、僕の脳内はお花畑だった。 「おい、さっきから何だその顔は・・・ 弁当食いながら気持ち悪い顔するのはやめろよ」 「え? だって、いま僕は本当に幸せだなあと思うんだよね。ムフフフ」 「おまえ何を言ってんだ?遂にイカれたか。まあいい。それより3組でクラスの女子かわいい子ランキングの投票やったんだってよ! その得票数1位の子を見に行かないか。本当にかわいいらしいぞ」 相変わらずどうしようもないやつらだ。 お前らの頭の中には、かわいい子に関することしか興味が無いのかよ。 (といいつつ、彼らの情報のお陰で僕も校内のかわいい子事情には事困ることが無かったりする) 「なぁ今日の放課後見に行こうぜ」 「今日の放課後? ダメダメ。行かなきゃならないところがあるんだ。大体そんなの、僕を待ってるであろうことに比べたら余りにも取るに足らないことだ」 「なんだよ、そのキリッ顔は・・・」 「君達ももっと自分の人生というものを考えて行動した方がいいぞ。男なら勝負すべきところってのがあるんだから、うん」 「なんだお前、今日は何か変なモノでも食ったのか??」 ホームルームが終わるやいなや、ダッシュで学校を後にした。 会ってはいけない人に会わないように、周囲に気を配り細心の注意を払って行動する。 その甲斐あって、無事誰にも会わずにここへやって来ることが出来た。 よし、順調だ。 こういういいリズムのときは、何をやっても上手くいきそうな予感がする。 そして、僕はそのいい流れのままに、これから舞ちゃんと会うのだ。ムフフフフフフフフフフ * * * * 公園の噴水広場。 舞ちゃんはまだ来ていない。 良かった。女の子を待たせるなんて最低だからな。 速攻で来て良かった。 舞ちゃんはなかなかやって来なかった。 もうかれこれ30分は待っている。 でも、舞ちゃんを待つこの時間、僕は嬉しくてしょうがない。 だって、僕がいま待っているのは、あの舞ちゃんなんですよ! 遅いな舞ちゃん。 まぁ、でも女の子ってそういうものだ。 女の子っていうのはいつだって彼氏を待たせるものなんだから。 いや、彼氏だなんて、そんな!ちょっと!!ムフフフフ 待っている間も、もうずっと舞ちゃんのことを考えていた。 彼女のことを考えると、気持ちが昂る一方だ。 待っている時間が全く苦にならないほど、いま僕は幸せを感じていた。 なかなか来ない舞ちゃん。 舞ちゃんのことをずっと考えていると、僕の脳内はだんだん妄想の世界へと導かれていく。 そうか。 舞ちゃん、ついに僕の気持ちを受け止めてくれる決心がついたのか。 「舞ちゃん、僕の気持ちが通じたんだね」 「うん、決心したでしゅ」 「舞ちゃん・・・」 「でも、あと2年待って。舞が16になるその時まで・・・」 「舞ちゃんが16歳になるまで?」 「16になれば法的にそれが可能になるから」 その大きな瞳を潤ませて、上目遣いで僕を見つめる舞ちゃん。 「その頃は大学生になってるんでしゅか?」 「2年後なら、たぶんそうだろうね」 「いろいろなこと、教えてくれる? 舞に・・・」 「舞ちゃん・・・」 僕が空気を抱きしめていると、いきなり背後から声をかけられた。 「なにしてるんでしゅか」 うわあ!!!!!!11 舞ちゃんが来ていたことに全く気付かなかった。 この僕が天使の接近に気付かなかったなんて。 つい妄想に夢中になりすぎてしまったようだ。 舞ちゃんと向き合うのは、あのお屋敷の前で告白したとき以来のことになる。 目の前の舞ちゃんは、さっきの僕の妄想の世界とはだいぶ雰囲気が違っていた。まぁ、当たり前のことだけど。 不機嫌そうに見える舞ちゃん。無表情だとこういう雰囲気になるんだよな、舞ちゃんは。 でも見たところ今が特別に不機嫌ってわけでもなさそうだし、つまり今はそのように単なる無表情だということなんだろう。 僕も多少は舞ちゃんの気持ち、その辺の判断が出来るようになってきたようだ(エッヘン)。 現実の舞様を目の前にして、僕は緊張の余り固まってしまう。 そんな僕に対して、舞様が先に話しかけて来て下さった。 「あのさ、いったい何をやってたわけ?」 「い、いや、べ、別に何も。変な事考えて一人で盛り上がってたりしたわけじゃ無くて・・・!!11」 「違うよ。いま何をしてたかなんて、そんなのどうでもいいから。この間の休日は何をしていたのかと、それを聞いてるの」 良かった。 僕が考えていたことを悟られたりはしていなかったみたいだ。 一瞬安堵した僕に対して、舞様はその怖い表情を崩さず重ねて僕に聞いてきた。 「え、どういうことでしょうか?」 「前に舞がお願いしたことがあるよね。それ、憶えてる?」 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/211.html
前へ どうやら自習だったらしく、ラッキーなことに先生はいなかった。 廊下での私たちのバカ騒ぎに、ほとんどの生徒は廊下に出てしまっていたけれど、数名残っていた子たちは怯えた表情で私の顔を見ていた。 「千聖・・・」 窓際、後ろから2番目。 頬杖をついて窓の外を眺める千聖の近くを、梨沙子がなんとも言えない表情でウロウロしている。 「あっもも!ほら、岡井さん。岡井さんが出て行かないから、ももが来てくれたよ!」 よっぽど気を使っていたのだろう、梨沙子はほっとした顔で、千聖の腕を軽くペチペチ叩いた。 「もも、ちゃん」 相変わらず緩慢な動きだけれど、千聖はしっかり私の方を見てくれた。立ち上がりかけたその肩を押してもう一度座らせると、私は空いていた隣の席に腰掛けた。 「・・・」 「・・・・・」 何ともいえない沈黙。肩に手をかけて、私たちはしばらく見つめあった。 「ぁ・・」 ほんの少し開いた千聖の唇から、細い声が漏れる。 「なぁに?」 「・・・あ、あの、いいの。何も・・」 「千聖。」 相変わらず、言いたいことは全然まとまっていない。でも、今を逃したら、もう二度と修復のチャンスは訪れないかもしれない。 「・・・千聖、もう一回聞くからね。千聖は、もぉが、お金のために千聖と付き合ってるって本当に思ってるの?」 梨沙子が小さく息を呑んだ。周りの生徒達の間からも小さなどよめきが起こっているけれど、私にとってはどうでもいいことだった。 「ももちゃ・・・だって、それ、は・・・私が・・」 「千聖のパパがどうとか、新聞部がどうとか、そんなことは関係ないの。私は千聖の考えてることが知りたいの。答えて。」 答えを聞くのは怖かったけれど、このままじゃいけないという思いが私の心を支えていた。 虚ろだった千聖の瞳に、ほんの少し光が灯ったように見えた。 「わ、私・・・私は・・」 震える声に、わななく唇。私は千聖の髪を優しく撫でながら、もう少しだけ顔を近づけた。 「もう、わ・・・わからなく、なって」 「うん。」 「寮の皆さんも、ももちゃんも、大好きなのに、私が・・・私のせいで・・・」 「違うよ!」 その時、ずっと傍らにいた梨沙子が、少し大きな声と共に割って入ってきた。 「あのね、ももはね、りぃとか熊井ちゃんといるときもいっぱい岡井さんの話をするんだよ。 岡井さんが元気ない時はいっぱい心配してるし、私に様子見てあげてって頼んできたりもするの。なのに、岡井さんはももの気持ちを疑うの?ありえない! そんなことするならね、もものこともぉ軍団に返してよー!ももはね、いつも岡井さんのことばっかりなんだから!」 「すぎゃさん・・」 「す・が・や!」 なぜか涙ぐんでいる梨沙子につられるように、千聖の顔がみるみるうちに歪んでいく。 「ももちゃん、ごめんなさい・・・」 千聖の腕が、私の首に絡みつく。自分から抱きついてきたのは、初めてのことだった。 心臓のドキドキがダイレクトに伝わってきて、私の鼓動も、それに合わせるように高まっていく。 「信じてくれるの・・・?もものこと」 柄にもなく、自分の声が上ずっているのがわかった。 「ももちゃんの気持ちを疑うなんて、私・・・本当にごめんなさい」 「千聖、よかった・・・・」 ずっと張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、私は千聖の腕に崩れ落ちた。 ほんのり香る、バニラのコロン。あったかくて、柔らかい身体。千聖が私のところに、戻って来てくれた。 「怖かった・・・このまま、誤解解けなかったらどうしようって」 「ごめんなさい、ももちゃん」 「いいよ。ずっと苦しかったでしょう?でもこれからは、もぉのこと信じて。もぉも千聖が大好きだから。ね?」 ――パチ、パチ ―パチパチ どこからともなく拍手が沸き起こり、抱き合う私たちの頭上に降り注いだ。 感動の涙を流している生徒たちの輪の中には、いつのまにか集合していた寮生達もいた。 「お、お嬢様!あの!寮生だって同じですから!」 「そうです、私たちだってお嬢様が大好きなんですよ!不安にさせてしまってごめんなさい。」 「私これからも添い寝に行きますから!これは義務なんかじゃなくてむしろ私の趣味っていうか」 「かんちゃんは黙るケロ!」 恥ずかしくて少し体を離すと、好機とばかりに寮生がお嬢様のところへ集まって、次々声をかけ始めた。 「ありがとう、皆さん・・・本当にありがとう」 「お嬢様ぁ」 ――もう、大丈夫かな。 私はそっと席を立つと、千聖の教室を後にした。 「ツグナガさんの目にも涙、とかいってw」 「んん?」 去り際、舞美口調で後ろから話しかけてきたのはウメダさんだった。 「もぉの涙はね、量産しない分価値が高いの。千聖も寮生も泣きすぎなんだよ」 「ふーん。まぁ、それはそうだね。」 並んで歩き出すと、廊下の野次馬さんたちはいっせいに道を開けてくれた。 「・・・・ちょっと悔しいかも」 「ん?」 「ツグナガさんは、ウチがずーっっと悩んでたことをすぐ解決させちゃった。」 ああ、千聖のことか。 そういえば、ウメダさんは何でも抱え込んでしまうって舞美が言っていたな。今朝倒れたのだって、このことが関係あったのかもしれない。 「まあ、もぉと千聖はラブラブなんでぇ。こんなハプニングぐらいどうってことないんだよん。 ・・・それよりさ、あともうちょい頑張ってよね。さっき廊下から覗いてたよ・・・舞ちゃん。まだ解決してないんでしょ?あの2人」 抱き合う私と千聖を、そして駆け寄る寮生を、舞ちゃんはさっき陰からずっと見守っていた。ここからは、寮生に頑張ってもらわなきゃ。 「それじゃ、もぉ教室戻るから。」 「あ、うん。じゃあね」 渡り廊下の分岐点でウメダさんは生徒会室に、私は自分の教室へそれぞれ戻って行った。 その後。 終わっていたとはいえテストを放棄し、中等部の校舎で大騒ぎした私は、担任にこっぴどく叱られた上に反省文を書かされた。 舞美とまーさは止めに入っただけなので、お咎めなし。 ウメダさんはたまたま立ち寄っただけなので、同上(ていうかもぉに協力してたじゃん!)。 もちろん、千聖も私の急襲に合っただけなので以下略。 「ちぃーさぁーとぉー。反省文めんどくさぁーい!」 「ふふ、もう少しだから、頑張って!」 そんなわけで私は放課後の教室で、千聖が見守る中、ぶーぶー言いながら原稿用紙を埋めていた。 めんどくさー!なんて思いつつも、一応頑張っているのにはわけがある。 「ねえ、さっきのって本当なの?今日千聖のうちで夜ご飯ごちそうになったらぁ・・・」 「ええ。ちょうど、お父様が北海道にお仕事で行ったみたいで。昨日いーっぱい海鮮が送られてきたのよ。ウニも、カニも、かんぱちもあったわ。 お夕食は海鮮丼かしら。とれたてのお魚、いっぱい盛ってもらって、上からお刺身用のおしょうゆをトロトロー・・・」 じゅるり。 もう、千聖ったら私のこと乗せるのが上手いんだから! 「ね、ももちゃん。私おなかすいてきちゃったわ。急いで急いで!そうそう、今日のおやつはクレームブリュレ」 「あーうっさいうっさい!集中とぎれるからお黙り!」 千聖の家に遊びに行くのは、何気に今回が初めて。舞美の話だと、本当に想像を絶するようなお屋敷らしいけど・・・ドキドキとわくわくが重なって、何だか変なテンションになっている。 「夜遅くなってしまったら、千聖のお部屋に泊まっていったらいいわ。ゲームや漫画はないけれど、最近大きいテレビに変えてもらったから、DVDを見ましょう。あと、リップとパインがね・・・」 「もー、はしゃぎすぎだから。ウフフ」 目を輝かせる千聖を横目に、私はそのプランを実行に移すべく、あと数行の余白を埋める作業に取り掛かった。 次へ TOP